12月の占い物語

村はずれの小さな林の奥に、カラカラと風に揺れる一本の木が立っていた。
その木には、鮮やかな七つ星の模様を持つ、小さなテントウムシが住んでいた。

彼の名前はナナホシ。

生まれたときからこの木を一歩も離れず、葉の上で朝露を浴び、木陰で昼寝をし、夜には星空を見上げて暮らしていた。

ナナホシは小さな世界で満足していた。

木の上で過ごす毎日は気ままそのものだ。

朝目が覚めたら葉の上を飛び回り、気が向けば幹を登ってみる。

けれども、それ以上のことは何も考えなかった。

自分に何かやりたいことがあるのかさえ、わからなかったのだ。

ある日、ナナホシは木の幹にしがみつきながら、枝に止まる美しい青い蝶を見つけた。
その蝶は、まるで空に溶け込むかのように軽やかに羽ばたきながら、話しかけてきた。

「ねえ、あなたはずっとここにいるの? 外の世界を見に行かないの?」

ナナホシは少し恥ずかしそうに答えた。

「僕はこの木で十分なんだ。ここが僕の家だから、外に行く必要なんてないよ。」

蝶は優しく微笑んで言った。

「でも、あなたの背中の七つ星は、ただここでじっとしているためについているわけじゃないでしょう? それは、あなたが新しい場所へ進むための目印よ。」

ナナホシは言葉に詰まった。

背中の星が自分のための「目印」だなんて考えたこともなかったからだ。蝶はさらに続けた。

「私も昔は小さな毛虫だったわ。でもね、ある日、殻を破って羽を広げたとき、背中の模様が光るような気がしたの。そしてその模様は、私が私らしく居られる場所を教えてくれる目印だったのよ。あなたの星も、きっと進むべき場所を示してくれるはずよ。」

蝶が飛び去った後も、その言葉はナナホシの胸の中で静かに響き続けた。

その夜、ナナホシは眠れなかった。

蝶の言葉が何度も頭を巡り、その度に背中の七つ星を見返した。

そしてふと気がついた。

自分は何かを始めても、いつも途中で飽きてしまっていたことに。

「そういえば、木登りも途中でやめたし、葉っぱの影を集める遊びだってそうだったな......」

ナナホシは少し悔しい気持ちになった。

何かを続けた先にあるものを、自分はまだ知らないのだ、と。

次の日の朝、その木にナナホシの姿はなかった。

意を決して、木の外に一歩踏み出してみようと決めたのだ。

旅を続けて、その先に何があるのかを今度こそ見届けるために。

 

***

 


ナナホシは旅を続ける中で、一匹のカタツムリに出会った。

カタツムリは、葉の影でゆっくりと首を伸ばしながら言った。


「君、旅の途中かい?」

「そうなんだ。僕はこの背中の星がどこへ導いてくれるのか、探してるんだ。でも、正直言うと、どこに行けばいいのか、まだよくわからなくて。」

ナナホシが少し戸惑いながら答えると、カタツムリはふんわりと笑ってこう言った。


「わからなくても大丈夫さ。君の星は、きっと風や光に応えるように作られてる。 僕たちカタツムリは足の感触を頼りに進むけど、君にはその星があるじゃないか。」

「星が進む道を教えてくれる?」

「そうさ。風を感じてみるといい。そうすれば、星がどちらに輝くか、きっと見えてくるさ。」


ナナホシはその言葉どおりに、風を感じながら試しに歩いてみた。

すると不思議なことに、背中の星の一部がより強く輝いているような気がした。

その輝きに向かって一歩一歩進んでみると、道はいつの間にか開け、広がり、違う世界へと導かれていった。

 

 

***

 

 

旅の果てに、やがてナナホシは広大な花畑にたどり着いた。

そこは、彼が背中の七つ星の輝きに導かれてきた最後の場所だった。

色とりどりの花々が風に揺れ、空には蝶や蜂たちが舞っている。

その光景は、彼が木の上から見ていた世界とはまるで違っていた。


「ここが、僕の星の先にあった世界なんだ。」


彼はしばらく花畑の真ん中でじっと立ち尽くした。

そして、そこで新しい決意をした。

「ここで暮らそう。そして、この花畑をもっと知ってみよう。」

それからの日々、ナナホシは花の上で朝露を浴び、蜜の匂いを覚え、周りの仲間たちと協力して暮らした。

星に導かれるように進む旅は終わったが、ここでの日々は新しい冒険の始まりでもあった。

 

 

***

 

 

ナナホシは花畑での暮らしを続ける中で、もう一匹のテントウムシに出会った。

彼女もまた、別の旅の果てにこの花畑にたどり着いたという。

彼女は優しく、穏やかな声でナナホシにこう言った。

「私もずっと、自分の背中の星がどこへ導いてくれるのか探していたの。ここで君に会うためだったのかもしれないね。」

二匹は次第に惹かれ合い、共に花畑で暮らすようになった。

そして、時が経つにつれ、二匹の間には小さな子どもたちが生まれた。

背中に星を持つその子どもたちは、花の上を元気に駆け回り、蜜の香りに夢中になった。

 

ナナホシはふと思った。

 

この花畑は、ただの「旅の終わり」ではなかった。

誰かと共に育てていく場所———それこそが、花畑が与えてくれる本当の意味だったのだ、と。

 

 

***

 

 
ある日、ナナホシは家族にこう話しかけた。


「僕が元いた木を、また見てみたいんだ。そこは僕が旅を始めた場所なんだよ。連れて行きたいんだけど、いいかな?」

彼女も子どもたちも笑顔でうなずき、その日の朝、ナナホシたちは花畑から木への道を一緒にたどり始めた。子どもたちは道端の葉っぱを追いかけたり、小さな虫に挨拶をしたりして、初めての旅を楽しんでいた。

そして、ようやく木にたどり着いた。

木はあの頃から何も変わっていなかったが、何故かナナホシの心には不思議なあたたかさが広がり、思わず顔がほころんだ。

 

「この木はずっとここで、待ってくれていたんだ。」

そうつぶやきながら、ナナホシは家族と共に木の葉の上で羽を休めた。

 

かつてひとりで見上げた葉の隙間から見える夜空は、今も同じように、ひっそりと輝いている。

 

けれど、今のナナホシには、それがまったく新しい景色に見えた。

 

夜空には、七つの星が煌々と輝いていた。

 

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