魚座の世界

魚座の世界

夜の帳(とばり)がほどけはじめ、空がわずかに白みかけた頃合い。

昇りかけの光に照らされる前の星空を見上げると、魚座の星々がかすかに揺れているのがわかります。

そこに描かれるのは、まるで海の中を泳ぐ二匹の魚の姿。

古代の人々は、この星々に混沌とした水の世界を見いだし、やがて“すべてを受け入れる優しさ”と“境界なき広がり”というイメージを託すようになったのかもしれません。

 

実は、この“海”にまつわるイメージこそが、魚座を理解するうえで非常に重要な手がかりになってきます。

というのも、私たちが暮らすこの地球も、かつては海とは程遠い状態だったからです。

さかのぼること46億年前、生まれたばかりの地球はマグマに覆われていました。

また、空には窒素や二酸化炭素、蒸気などのガスが充満していたそうで、それはもうカオスそのものだったかと思います。

しかし、時間の経過と共に地球のほてりは冷めていきました。

そして熱が冷めていく中で、大気中にあった水蒸気が雨粒となって地上に降り注ぎ、地球規模での「大梅雨時代」が到来します。 

この世界規模の土砂降りによって生まれた、大きな水たまり。これが海のもとになった、とされています。

当然、この“原始の海”はガスや塵など色々なものを含んだ水たまりです。

しかも、温度が下がったとはいえ地上はまだ熱かったでしょうから、マグマが残っていたり、色々なガスもそこかしこから噴き出ていたのかと思います。

で、そういうゴチャゴチャっとした不純物なりを含んで、海はどんどん拡大していきました。

やがて、海に含まれた物質が化学変化を起こしたり、菌のような生物が生まれたりして、そこから海藻が生まれます。

光を浴びた海藻は酸素を生み出し、酸素は海から地表へと立ち上る。

そして、酸素は大気中に放たれて紫外線と反応を起こし、その結果オゾン層というフィルターが生まれます。

オゾン層は遮光カーテンのようなものですから、強すぎる紫外線を適度にブロックしてくれるんですね。

これまでの陸はといえば、やれマグマだのガスだの、強すぎる日差しやらで、とてもじゃないけど生き物が過ごせる環境じゃありませんでした。

けど、日除けができたしなんだかイケそうだぞ、ということで植物が陸へと上がっていったのです。

ここまでで既に42億年程度が過ぎていますが、地上含めて植物が増えたことで、ここからさらに環境がマイルドになっていきます。

そして、その過程で魚類が生まれ、陸上にあがり......という流れで生物が進化していきました。

これはあくまで科学の立場での推測に過ぎず、誰も目にしたことがないので真実はわかりません。

ただ、私たち人間の体を構成する元素は、海水の組成とよく似ているといわれています。

赤ちゃんが浸かっている羊水も海水とほとんど同じようですから、そういう観点でこの仮説は確からしいといえます。

さて、急にずらずらと地球史について話してしまいましたが、この海の成り立ちは魚座の世界を理解するのにすごくわかりやすい例だったりします。

 生物、というか生きとし生けるものは、海から始まって海に還る。

そこには綺麗なものも不純物も含まれた状態で、すべてがひとつになっている。

これが魚座的な世界観です。

だから占星術の世界では、魚座は「混沌」を司るとされています。

ただ、同時にすべてを受け入れるその度量の深さから「愛」や「信頼」の星ともされています。

そしてもう一つ、魚座は「死、あるいは死後の世界」「霊的なもの(スピリチュアル)」「宇宙」の象徴ともされています。

先ほどの海の話に少し戻りますが、世界各国には風習として川や海に遺体を流したり、散骨したりする地域があります。

また、仮に土に埋葬されたとしても、遺体は土中の生物によって分解され土に還り、エコシステムの中に組み込まれます。 エコシステムのサイクルは、言わば陸・海・空をぐるぐると回る営みですから、そういう意味ではどこで息絶えても結果的に海に還ることになっているわけです。

自死をするのに海を選ぶ方が一定数いるのも、そこには「還る」ための何かを本能的に感じとっているから最期を迎える場所に選ばれるのかもしれません。

何が言いたいかというと、そういうものを含めて海は「還る場所」としての機能を持ち、混沌としています。

海には生物も多くいますし、観光地としても栄えます。

しかし、一方でその海中には“亡き者”もたくさん漂っていて、それが共存している場所なわけです。

そして、こうした「混沌」であるとか「海」といった魚座の性質にすべて共通しているのが「境界線をもたないこと」です。

先ほど「魚座は混沌を司る」と紹介しましたが、個人的には「境界線を溶かす(もたない)」性質こそが魚座の本質を捉えているように思います。

というのも、魚座に当てはめられている象意として、混沌・海・水・死・死後の世界・香り・オイル・煙・思想・観念・記憶・神秘・愛・詩・音・宇宙などが挙げられますが、これらはほぼすべて「境界をもたないものたち」だからです。

元々、海は大きな水たまりだったわけで、そこに区切りなんてものはありませんでした。

今でこそ各国が海域を定めたりしていますが、あくまで人が決めたものでしかなく、本来はボーダレスなものです。

だから、魚たちは国境なんて気にせずに、広い海を自由に泳ぎまわります。

魚座の世界は、そんな果てしなく広大で、自由なフィールドなのです。

そして、もしあなたの周りに魚座さんがいるなら、その境界線の薄さをふと感じる瞬間があるかもしれません。

相手の感情を自分のことのように受け取ってしまったり、困っている人を放っておけなくて世話を焼きすぎたりする。

誰かが抱える苦しみや悲しみを、一緒になって涙できるほど共感しすぎるところがある半面、その優しさに救われる人も多いでしょう。

仕事の場面では、自分がやるべきこと以外まで引き受けてオーバーワーク気味になってしまうこともあるかもしれませんが、その分、まわりからの信頼を得るケースが少なくないようです。

魚座の人はあまり強くアピールをしないのに、さりげなくチームを支え、結果的に欠かせない存在になっている――そういう姿を、職場でも学校でも見かけるのではないでしょうか。

 

さらに恋愛面をみても、この受容力と境界の薄さが顕著に表れてきます。

好きな相手のために時間を惜しまず尽くし、ときにはロマンティックな夢や空想話で相手を楽しませる――そんな優しい姿勢に惹かれる人は少なくありません。

物語の世界のような甘いムードを創りあげるのが得意な一方、少々現実離れしすぎて、実際には叶わない理想を追いかけてしまうこともあるでしょう。

もし恋愛関係で苦しくなったときは、一度、自分の本音と相手の状況をしっかり区別してみるといいかもしれません。

どこからが相手の問題で、どこからが自分の問題なのかを認識することで、境界線を程よく持てるようになりますし、失望も少なくなるはずです。

 

人間関係全般については、魚座の人がそばにいると、不思議と場の空気がやわらかくなるという印象があります。

誰かに寄り添うのが当たり前のように上手なので、大勢の集まりでは「すごく盛り上げ役」というわけではなくとも、結果的に全体を優しく結びつけていることが多いのです。

家族や友人間でも、「あの人がいるとなんだか気持ちが落ち着く」という役割を担いやすいでしょう。

その反面、ネガティブな空気に飲み込まれやすい面もあるため、もし自分が魚座ならストレスを感じたときは遠慮せずに距離をとり、一人の時間やリラックスを大切にすることも必要です。

相性でいえば、同じ水のエレメント(蟹座、蠍座)とは言葉少なでも分かり合える“情”のシンクロを味わいやすく、地のエレメント(牡牛座、乙女座、山羊座)とは現実性と感性がほどよく結びつくため、安定した関係を築きやすいとされます。

逆に、風のエレメント(双子座、天秤座、水瓶座)とは軽快なやりとりができる半面、ドライに思える瞬間に魚座が寂しさを感じるかもしれません。

火のエレメント(牡羊座、獅子座、射手座)とは情熱と柔軟性が融合するものの、勢いよく引っ張られると魚座が息切れしてしまわないかがカギになるでしょう。

いずれにせよ、どんな相手とも境界をほどよく保ちつつ、魚座特有の優しさや共感力を活かせれば、お互いに新しい世界を見つけられるはずです。

 

それにしても、「海から始まり、いずれ海へ還る」という壮大な地球の歴史に照らし合わせると、魚座が象徴する“混沌”や“境界線のなさ”は、私たちのルーツそのものを思い起こさせてくれる気がします。

生も死も愛も、海のなかで混ざり合っているように、魚座という星座もまた“すべてを抱きしめる”度量を持ち、現実と夢のはざまでつねに漂っている。

それは決して楽な生き方ではないかもしれませんが、そこには海のように大きな愛と、すべてを融解してしまうほどの優しさがあるのです。

 

もし自分が魚座であるならば、どうかその境界線の薄さを否定せず、上手に使ってあげてください。

誰かに寄り添いながらも、自分自身を見失わない工夫をすることで、“海のように広大で柔らかな魅力”がもっと輝いていくでしょう。

もし身近な人が魚座なら、その人に向けて「あなたのおかげで楽になった」「癒された」と言葉をかけてあげると、深い共感の海は温かな波として返ってくるはずです。

生きとし生けるものが海から生まれ、海へ還るという壮大な循環の真ん中に、魚座の優しいまなざしはそっと寄り添うように在り続けている――そんな物語を思い描きながら、どうぞ魚座という星座の不思議な魅力を、ゆっくり味わってみてください。

ブログに戻る